講演1】 「女性医師の結婚と出産のタイミング〜キャリア構築と妊娠のリスク〜」
講師 : 帝京大学医学部公衆衛生学講座講師 野村恭子先生
○なぜ、女性医師の活用なのか?
医療費削減のため医学部定員削減政策がとられているが、過去30年、日本の医師数はOECD諸国のなかで低い。
さらに、2004年の新医師臨床研修制度の導入によって、大学医局から地域の病院への医師派遣が中止され、地方病院は医師不足となるものの、病院に患者は集中して、病院医師の長時間労働が常態化するという悪循環を来している。
そのような背景から、全体の18%で、新しく医師免許を取得するうちの3割を占める女性医師を活用しなければいけなくなった。アメリカも約30年前に似た状況(医師の11%が女性)で、現在は全体の40%近く、医学校入学者の過半数を女性が占めている。
ただ、今の日本では、20代では36%の女性医師が、30代で27%に減少しており、この女性医師の継続就労を阻んでいるのは、大きく二つの因子に集約される。
つまり、@女性の社会的役割への固定観念・周囲の期待(女性、妻、母親、嫁・・・)とA長時間労働、頻回の当直、保育不足、性と労働衛生などの就労環境 である。このふたつの大きなハンディを乗り越えられず、女性医師の半数以上が離職しており、その90%は卒後10年以内に起こっている。
これは、日本全体の女性の就労率のM字型カーブと一致している。そして、いったん、常勤を離職してしまうと、常勤に復職するのは難しく、約3割である。
○医科大学合同調査などの背景は・・・
いくつかの医学部を対象とした調査結果から、みえた特徴は以下のような点である。
・女性と男性では選択する診療科が全く異なっていた。(上位5は、女性で内科・皮膚科・小児科・眼科・産婦人科に対し、男性は内科・整形外科・外科・産婦人科・眼科)
・就労形態についても、男性の96%フルタイムに対し、女性はフルタイム69%、パートタイム29%で無職が2%(男性では無職ゼロ)
・週当たりの労働時間は、20代では男女差なく、その後の年代では男性のほうがより長く働いているが、30〜50代の女性も通常の40時間以上は働いているのである。
○女性医師の結婚と出産のタイミング
・結婚・出産いずれかのライフイベントによって、一度でも離職した経験のある女性医師は52%を占め、多くは卒後4〜6年の間に、結婚・出産を経験している。そして、20代で結婚はしても、出産はもう少し遅く、専門医資格取得が理想的だと考えている。
・アメリカでは女性医師のほとんどが研修医時代に家族計画をしているという調査結果もある。
○医師の労働環境と妊娠・出産合併症との関連
・別の視点でみると、女性医師の55%が鎮痛剤を使用するほどの月経痛に悩まされながら、生理休暇を取得しているのはゼロと言う実態である。(看護職員は12%)
・また、産前産後休暇については、取得はしているものの、産後8週未満が30%近くなど、実際には、労働基準法に抵触している。また、育児休暇の取得も30%しかない。
・このような背景から、妊娠・出産中の異状を調べると、切迫流産や切迫早産・低出生体重児が多かった。妊娠時の週当たりの労働時間は関連があるといえる。
・また、妊娠時の職場や家庭の保育支援がないことを理由に離職してしまった女性医師とそうでない女性医師では、結婚・出産年齢、子どもの数には差がないにもかかわらず、認定・専門医の取得や医学博士の取得は、継続して働いた女性医師で高率という結果が出た。
- ○まとめ
仕事と私生活を両立させ、最大限のポテンシャルを引き出すために必要なのは、以下の5点といえる。
1) 結婚や出産で辞めさせない取り組み
2) 産前産後休暇を十分に取らせる
3) 育児休暇を親である医師すべてに取得してもらう。(男性医師も)
4) 早急な職場の環境整備
5) 男性医師や組織の意識啓発
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Q&A
Q:「1.長時間労働で妊娠・出産のリスクが増加することは、他の職種においてもあると思われるが、医師の場合の特異性はあるか?」(女性医師から)
A:長時間労働でこの合併症のリスクがあがることは他の職種でも同じで、これを減らす努力はぜひ必要である。これから他職種のデータ(報告は少ないが)とのメタ解析をやっていくつもりである、
Q:「“仕事に対するモチベーションが低い”という表現があったが、内在的に女性ではそうだといえるのか?外因的要素によってモチベーションを喪失するのではないか?」(女性医師から)
A:学生時代からのmotivationの確立とその後の維持は、やはり、外的要因の大きい女性医師には重要である。また、解剖実習などの実習や経験を通してモチベーションの低下が生じてくる女子学生がいるのも事実で、生物学的にそうなりやすい要素も否定はできない。
Q:「学生時代に結婚・出産という選択肢はないのか?」(男子医学生から)
A:多くの学生にとっては、日々の勉強をこなし、試験をクリアすることだけでも大きな負担で、これと並行して結婚・出産・子育てをすることは難しいと思われる。一選択肢としてはあり得るが、それがbetter choiceではないと思われる。
⇒このやりとりの後、講師が参加者に「学生時代に結婚して出産してもいいと思う人?」と質問したところ、3名の女子学生が控え目に挙手していた。
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講演2】「女性医師支援に対しての医師会の取り組みについて」
講師 :長崎県医師会常任理事 上戸穂高先生
日本医師会が、平成17年以来取り組んできた女性医師支援事業を紹介され、これに応じて、現在、長崎県医師会が行っている施策についても言及された。
各都道府県医師会では、女性医師支援のための部会が設置されているが、現時点で長崎県にはないものの、近いうちに「男女共同参画委員会(仮称)」として発足させたいというのが講師のご意見ということであった。
参照:日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/doctor/female/
Q&A
Q:「前の講演にも関連するが、女性医師支援策に積極的に取り組まれていることは感謝するが、と同時に、男性医師の働き方、とくに勤務医の負担軽減なども同時に取り組まないと女性医師の受け入れは難しいのではないか?」(女性医師より)
A:上戸先生「その視点での配慮もこれからやっていきたいと思う」
野村先生「女性医師だけでなく、男性医師の負担も減らすということを同様に行うのは、なかなか難
しい。まずは、女性医師の出産・子育てに男性医師が理解を示すようなことから取り組み、男性医師
も育児休暇を取得するというような段階的な取り組みが必要と考えられる。」
Q:「勤務医の負担軽減の一案として、大阪厚生年金病院産婦人科が取り組んだように、近隣の医師会会員が女性医師が多くて不足しがちな当直の役目を担うようなことに取り組んではどうか?」(女性医師より)
A:「一提案として、男女共同参画担当役員で前向きに検討してみたい。」
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【懇談会】
講演終了後に隣の談話室に移り、たくさんの食事と飲み物を前に、講師の先生方を取り囲んだり、先輩医師たちへの進路相談や、さまざまな話題にみなさん盛り上がっていました。
今日、参加した女子医学生や研修医たちが、医師や認定・専門医の資格を順当に取得すると同時に、結婚・出産しても離職することなく、働き続けようと確固たる決意をもってもらえたなら、嬉しく思います。
そして、いっしょに参加した男子学生・男性医師がよき同志・先輩・ボスとして、ともに医師の就労環境を改善して、出来る限り全ての医師資格取得者が継続して社会貢献できるような体制づくりにご理解いただきたいと思います。
もちろん、それは、私たち団体の設立趣旨ですので、今後も積極的に活動を続けていきます。
最後になりましたが、この懇談会は、ながさき女性医師の会が企画しましたが、長崎県医師会の主催として、大変なご支援をいただきました。
この場をかりて、蒔本 恭会長をはじめ、県医師会のみなさまには感謝の意を表したいと思います。
おわり
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